解析手法の変遷

写真:腸内常在菌1960年代から腸内常在菌の研究が始まり、分離・培養可能な細菌から分類・同定が精力的になされて、培養条件の検討や培地の開発なども進みました。その結果、腸内菌叢を構成する大部分は偏性嫌気性細菌であり、それまで言われていた、大腸菌や腸球菌が最優勢であるという考え方が改められました[1]

FISH法

1980年代ごろから、培養を介さない手法によって菌叢を解析する方法が開発されてきました。FISH(Fluorescent in situ hybridization)法は、特定の遺伝子の塩基配列を認識する核酸プローブを蛍光で標識する方法で、各種の生物の遺伝子発現解析やヒトの染色体の構造異常の研究や診断に用いられて来た方法です[2]。この手法を菌の解析に応用し、顕微鏡下で菌の形態や数の観察と同時に、その菌が特定の菌のグループに属することを明らかにする技術として用いられました。

PCR・クローニング・シーケンシング(サンガー法)

写真:塩基配列FISH法は菌の分子生物学的な分類体系を導入した意義が大きいと言えますが、さらに遺伝子の塩基配列を決定するPCR・クローニング・シーケンサー技術の発展により16S rRNA遺伝子の塩基配列を決定しその配列とクローンの数を比較することにより、一部の既知の菌についてはヒトによる存在比率を調べることができるようになりました[3]

その結果、さらに多くの菌の塩基配列情報のデータベース化が進み、その他の生物と同様にゲノム解析の成果が多く得られました。このような遺伝子解析のメリットは、サンプル中の菌を生かしたまま処理する必要がないため、検体の採取、保存、輸送等が簡便であることです。一方で、腸内(検体中)で死んでいる菌のDNAを検出する可能性もあり、宿主に影響を与える生菌を見ていない可能性もあります。

定量的PCR

写真:定量的PCR2000年頃には、定量的PCRを用いて、菌のグループに特異的なプライマーを用いてさらに高い定量性・感度で、クローニング工程を経ないで直接測定できるようになりました[4]。しかし、定量的PCRは、上記のメリットがあるものの、菌ごとまたは菌のグループごとに特異的なプライマーを設計する必要があるため、網羅性に欠けるため探索的な手法には向いていません。

T-RFLP

その後、ターミナルRFLP(T-RFLP)という手法が開発され、比較的迅速簡便な方法により、多数の検体について複数の菌のグループを同時に定量することができるようになりました。T-RFLP法は、16S rRNA領域のPCR産物を複数の制限酵素処理後にフラグメント解析を行います。その結果ピーク強度のパターンから菌叢プロファイルを得ることができます[5]。この方法は低コストで菌叢のパターンを粗く分析できることから現在でも多くの研究者に活用されています。ただし、属から目レベルで菌の相対値を算出しますので、例えば、症例と対象の群比較を大まかに行い、菌叢が変化していることを確認するような目的で使われてきました。

次世代シーケンサー(NGS、Next Generation Sequencer)

写真:次世代シーケンサーさらに2005年以降、次世代シーケンサー(NGS、Next Generation Sequencer)装置の開発の進展による低コスト化の実現により、培養を経ないで糞便全体から菌叢を含むDNAをまとめて抽出し、菌由来の16S rRNAの配列を解析することにより、どのような菌がどの程度存在するのかを属レベルで高精度に分析することが現実になりました[3]。このNGSを用いた方法は網羅的かつ高精度に多数のサンプルを解析できる点で上記のいずれの方法よりも優れています。NGSを使用するために、費用が高くなりますが、現在の試薬・機器の開発速度から測定コストは継続的に下がっていくものと予想されます。当社ではこのNGSを用いた解析サービスを提供しています。


[1]
光岡知足、腸内菌叢研究の歩み、腸内細菌学雑誌、2011、25:113-124
[2]
Amann R.;Schleifer KH.et al. Phylogenetic identification and in situ detection of individual microbial cells without cultivation. Microbiol Rev. 1995 Mar;59(1):143-69.
[3]
服部正平、ヒト腸内マイクロバイオーム解析のための最新技術、Jpn.J.Clin.Immunol.,2014,37(5) 412-422
[4]
Kaufmann P.;Meile L.et al. Identification and quantification of Bifidobacterium species isolated from food with genus-specific 16S rRNA-targeted probes by colony hybridization and PCR. Appl Environ Microbiol. 1997 Apr;63(4):1268-73.
[5]
Liu WT.; Forney LJ.et al. Characterization of microbial diversity by determining terminal restriction fragment length polymorphisms of genes encoding 16S rRNA. Appl Environ Microbiol. 1997 Nov; 63(11): 4516–4522.

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