無菌動物(Germ free animal)とノトバイオート(gnotobioto)

実験動物には大きく分けて4種類あり、無菌動物・ノトバイオート・Specific Pathogen Free(SPF)動物、コンベンショナル動物があります。その中でも特に無菌動物やノトバイオートは菌叢解析研究に汎用されています。無菌動物は、英語でGerm free animalと言われており、Germとはすべての微生物を指していることから、現在知られている検出可能なすべての微生物が存在しない動物と定義することができます[1]。ただし、無菌動物を使用した研究において検索検出対象となっているのは細菌が中心であることから、細菌・マイコプラズマ・寄生虫・原虫・真菌は含まれているが、ウイルス・リケッチは含まないとされています[2]。また、死滅した微生物が含まれるかどうかの問題が残りますが現在は定義に含まれていません[2]。一方で、ノトバイオートは無菌動物に既知の生物を定住させ、そこに存在するすべての生物が分かっている動物とされています[2],[3],[4]。これらの動物種を使用してマイクロバイオームと生体の関係を明らかにする研究が行われています。

腸内細菌叢が薬物代謝に与える影響

生体内に生息する細菌叢は薬物の代謝に影響を及ぼすことが昔から知られています。例えば、うっ血性の心不全に使用されるジゴキシンは医薬品の添付文書内相互作用の項目に、この薬の代謝に腸内細菌叢が関与していることを明記しています。これは一般的にBacterial Biotransformationと呼ばれ周知されている現象です。現在では、他にも菌叢が代謝に影響する薬が多数報告されています[5],[6]。一方で細菌叢が宿主の薬物代謝関連遺伝子の発現量を左右させることで間接的に薬物代謝に影響を及ぼしている可能性があると報告されています[7],[8]。この論文によると無菌マウス肝臓においてPhase-1 drug-metabolizing enzyme(第Ⅰ相薬物代謝酵素)である各種CYPが増減すると報告しています。加えてPhase-2 drug-metabolizing enzyme(第Ⅱ相薬物代謝酵素)であるグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST:Glutathione S-Transferase)やUDP-グルクロノシルトランスフェラーゼ等のmRNA発現量も菌叢の状態により変化することが報告されています[7],[8]。これらのことから腸内細菌叢が宿主肝薬物代謝・薬物反応性関連遺伝子の発現量に影響を及ぼすことが明らかとなってきています。

動物試験の再現性とマイクロバイオーム

試験動物の腸内細菌叢解析をしない状態で薬物投与による動物実験や非臨床試験(薬効薬理試験・毒性試験・薬物動態試験)を行うことは予期しない結果や再現性の取れない結果を生じることが危惧され始めています。CraigらはMicrobiota and reproducibility of rodent modelsという論文にて、菌叢とげっ歯類モデルにおける再現性について言及しています[9]。また、消化器系論文の各エディターが共著でCOMMENTARY「Not all mice are the same:Standardization of animal research data presentation.」を各誌に掲載し、潜在的なマイクロバイオームの効果を最小限にするようにと記載しています[10]。今後、論文作成や非臨床試験を行う際には、動物試験で用いる動物の腸内細菌叢を考慮することが当たり前になる時代が来ると予想されています。


[1]
宮川正澄, 無菌動物を利用する老化現象の研究. 老年病,1962, vol.1962, Special, p. 129-137
[2]
伊藤喜久治, 無菌動物・ノトバイオート. ビフィズス, 1994, vol.7,p149-154.
[3]
佐々木正五, 無菌動物の医学への応用. 感染症学雑誌.1971,vol.45,no.5,p179-184.
[4]
MARIE E.COATES, GNOTOBIOTIC ANIMALS IN RESEARCH:THEIR USES AND LIMITATIONS.Laboratory Animals, 1975,vol.9,p275-282.
[5]
Klaassen CD.;Cui JY. Review: Mechanisms of How the Intestinal Microbiota Alters the Effects of Drugs and Bile Acids. Drug Metab Dispos. 2015 Oct;43(10):1505-21. https://doi.org/10.1124/dmd.115.065698 Epub 2015 Aug 10.
[6]
Koppel N.;Balskus EP.et al. Chemical transformation of xenobiotics by the human gut microbiota. Science. 2017 Jun 23;356(6344). pii: eaag2770. https://doi.org/10.1126/science.aag2770
[7]
Selwyn FP.;Cui JY.et al. Regulation of Hepatic Drug-Metabolizing Enzymes in Germ-Free Mice by Conventionalization and Probiotics. Drug Metab Dispos. 2016 Feb;44(2):262-74. https://doi.org/10.1126/science.aag277010.1124/dmd.115.067504 Epub 2015 Nov 19.
[8]
Selwyn FP.;Klaassen CD.et al. RNA-Seq Quantification of Hepatic Drug Processing Genes in Germ-Free Mice. Drug Metab Dispos. 2015 Oct;43(10):1572-80. https://doi.org/10.1126/science.aag277010.1124/dmd.115.063545 Epub 2015 May 8.
[9]
Franklin CL.;Ericsson AC.Microbiota and reproducibility of rodent models. Lab Anim (NY). 2017 Mar 22;46(4):114-122. https://doi.org/10.1126/science.aag277010.1038/laban.1222
[10]
Omary MB.;Turner JR.et al. Not all mice are the same: Standardization of animal research data presentation. Gastroenterology・Gut・J Hepatol・Hepatology・Cell Mol Gastroenterol Hepatol,2016.

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