炎症性腸疾患 (Inflammatory Bowel Disease:IBD)

IBDは消化管に炎症を起こす慢性疾患であり、クローン病(Crohn’s disease:CD)と潰瘍性大腸炎(Ulcerative colitis:UC)の2種類に大別されます。CDは小腸末端である回腸や大腸を中心に口から肛門までの消化管すべての部位で炎症が起こる可能性があり、下痢や腹痛といった症状が慢性的に起こります。一方で、UCは主に大腸結腸部に多発し、けいれん痛や血性下痢といった症状が多くみられます。疾患部位で慢性的に炎症を起こすIBDはがんの発生リスクになるとも言われています。現在、日本国内でCD・UCと認定されている患者数は、およそ4万3000人と16万8000人で増加傾向にあります[1]。しかしながら、その原因はまだ十分に解明されておらず、腸内細菌や環境要因と遺伝的要因が加わることによる自己免疫の活性化に起因するのではないかと言われています[2]

腸内細菌と炎症性腸疾患

IBDと腸内細菌の関連が着目されるようになったのは、腸炎を自然に発症するノックアウトマウスを用いた実験において無菌環境にすると腸炎を発症しないこと[3],[4]、また、Genome wide association study(GWAS)によりIBDに関連する遺伝子が200以上同定され[5],[6],[7],[8]、それら疾患感受性遺伝子が、粘膜バリア、獲得免疫、自然免疫といった腸内細菌の認識・処理に関連する遺伝子を含んでいたことに起因しています[9],[10]。これらの研究結果から、IBDは腸内の細菌が原因で起こることが示唆され原因菌探索が盛んに開始されています。これまでの多くの報告によると、IBD患者の便の菌叢は健常人の菌叢と比較して多様性が低下(ディスバイオーシス)していることが明らかとなっています[11],[12],[13]。また、IBD患者の腸内細菌叢の変化として、Firmicutes門のLactobacillusFecalibacterium parausnitziiRoseburia hominis,・Clostridium XIVagroup、Actinobacteria門のBifidobacteriumの減少が特徴付けられます[14],[15],[16]。特にClostridium XIVa groupは短鎖脂肪酸を産生する菌が多く、制御性T細胞の誘導に関与することによりIBD患者における腸管の恒常性の破たんが生じていると考えられています[16]。現状、IBDの発症に関与する直接的な原因菌は見つかっていませんが、その可能性のある菌は数種見つかってきており詳細な研究が行われています。


[1]
公益財団法人難病医学研究財団 難病情報センター,平成28年度末現在 特定医療費(指定難病)受給者証所持者数, 対象疾患・都道府県別.http://www.nanbyou.or.jp/upload_files/kouhu20172.pdf,(参照2018-08-17).
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[12]
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[13]
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[14]
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[15]
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[16]
新井万里,水野慎太,金井隆典.炎症性腸疾患における糞便微生物移植法の過去・現在・未来.モダンメディア.2016,vol.62,no.3,p.69-74.

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