糞便微生物移植 (Fecal microbiota transplantation：FMT)
糞便微生物移植は、読んで字のごとく糞便を移植することです。何らかの原因で腸内の細菌叢が乱れてしまった状態(ディスバイオーシス）を是正する為に、健康とされている人の糞便を内視鏡を用いて移植します。実際には糞便をそのまま移し替えているわけではなく、健康な人の便を生理食塩水で希釈、その後、未消化物をフィルターで除いたものを消化管内に注入して行う方法が一般的に用いられています。糞便を移植することは生理的に受け入れ難いことかと思いますが、糞便を利用した治療法は古くは4世紀ごろから中国で行われていたと言われており[1]、また、日本でも人糞の様々な効能を紹介する記述が本草和名という現存最古とされる薬物辞典に人屎の項目で掲載されています[2]。この様に糞便を利用した治療は比較的昔から実践されていた治療法であるということが分かります。現在のところ、糞便微生物移植法が最も奏功する疾患はクリストリジウム・ディフィシル腸炎(CDI)と言われていますが、薬による治療と比較して糞便微生物移植による治療は副作用が少ないことから、他の疾患、例えば移植片対宿主病[3]・潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患[4],[5],[6]・肝性脳症[7]・てんかん[8]・自閉症[9]・肥満やメタボリックシンドローム[10]といった疾患への応用も試みられています。一方で、FMTは有望な治療法でありますが，感染などのリスク予防，慎重なドナースクリーニング法，最適なプロトコールの決定など[11]，解決すべき問題も山積しています。今後、有効性も含めたさらなる検証が必要でありますが発展性のある治療法です。
再発性クロストリジウム・ディフィシル感染症(Recurrent Clostridium difficile:RCDI)に対する糞便移植
2013年、衝撃的な１本の論文がvan Nood E et al.によって発表されました[12]。遠い昔から糞便を利用した民間療法が存在していましたが、この論文により一気に糞便移植が標準治療に採用されるようになり着目されるようになりました。この論文では、再発クリストリジウム・ディフィシル感染症患者を治療対象とした抗生物質投与群と抗生物質投与後糞便微生物移植群の比較を行っています。この比較試験で明らかになったことは、抗生物質投与群では30%程度、抗生物質投与後糞便微生物移植群では90％程度治癒するという結果であり、途中で試験をやめるのが倫理的にふさわしいと考えられるほど奏功率に明らかな差がありました。このことから、欧米諸国ではRCDIにおいて糞便微生物移植が医療として用いられ始めています。
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- [2]
- 国立国会図書館デジタルコレクション、本草和名 2巻 コマ番号80/133, 書籍ID:000007316836,
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- 垣花和彦, 腸管急性GVHDに対する便微生物叢移植.臨床血液.2017,vol.58,no.5,p499-505
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- [5]
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- [7]
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- [9]
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